その493 職人の技 2019.10.20

2019/10/20

河江優というピアニストのリサイタルを聴いた。
プログラムは前半がシューベルトのソナタ第14番イ短調、後半はリストの超絶技巧練習曲全曲。
リストのあの12の練習曲を一度に全部弾いてしまうなんて、なんという、、、。
どの曲も美しい難曲で、脳の力、腕の力、体力を使い切るようなプログラム。
聴くほうも体調が良くないとかなり疲れる。

 

第1曲の「前奏曲」から鮮やか、滑らかな演奏であった。
中低音がやや聴き取りにくいのはホールの特性のように思う。
「マゼッパ」や「狩り」のようなダイナミックな曲も良かったけれど、
彼の美点が最もよく出るのは第9曲「回想」にある、
ビロウドのようなスケールが生かされる曲ではないだろうか。
見事に全曲を弾き切った後、アンコールに応えてシューマンの一曲を静かに弾いて演奏会は終わった。
数百人の聴衆は座席を立つ前に、ほーっと息をつき、満足して家路につく。

 

彼は派手なパフォーマンスでアピールするようなピアニストではない。
凡人からすると驚異的な才能であるが、普段から誠実にレパートリーを積み上げ、
今日のリサイタルのために一層の磨きをかけてきたのであろう。
渋い職人のようなピアニストである。
彼には末永くステージで活躍を続けてほしい。